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新美南吉 Nankichi Niimi 1913.07.30〜1943.03.22

王さまと靴屋

おうさまとくつや

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ある日、王さまはこじきのようなようすをして、ひとりで町へやってゆきました。

町には小ちいさな靴屋くつやがいっけんあって、おじいさんがせっせと靴くつをつくっておりました。

王さまは靴屋くつやの店にはいって、

「これこれ、じいや、そのほうはなんという名なまえか。」

とたずねました。

靴屋くつやのじいさんは、そのかたが王さまであるとは知りませんでしたので、

「ひとにものをきくなら、もっとていねいにいうものだよ。」

と、つっけんどんにいって、とんとんと仕事しごとをしていました。

「これ、名なまえはなんと申もうすぞ。」

とまた王さまはたずねました。

「ひとにくちをきくには、もっとていねいにいうものだというのに。」

とじいさんはまた、ぶっきらぼうにいって、仕事しごとをしつづけました。

王さまは、なるほどじぶんがまちがっていた、と思って、こんどはやさしく、

「おまえの名なまえを教えておくれ。」

とたのみました。

「わしの名なまえは、マギステルだ。」

とじいさんは、やっと名なまえを教えました。

そこで王さまは、

「マギステルのじいさん、ないしょのはなしだが、おまえはこの国の王さまはばかやろうだとおもわないか。」

とたずねました。

「おもわないよ。」

とマギステルじいさんはこたえました。

「それでは、こゆびのさきほどばかだとはおもわないか。」

と王さまはまたたずねました。

「おもわないよ。」

とマギステルじいさんはこたえて、靴くつのかかとをうちつけました。

「もしおまえが、王さまはこゆびのさきほどばかだといったら、わしはこれをやるよ。だれもほかにきいてやしないから、だいじょうぶだよ。」

と王さまは、金の時計とけいをポケットから出だして、じいさんのひざにのせました。

「この国の王さまがばかだといえばこれをくれるのかい。」

とじいさんは、金づちをもった手をわきにたれて、ひざの上の時計とけいをみました。

「うん、小ちいさい声で、ほんのひとくちいえばあげるよ。」

と王さまは手をもみあわせながらいいました。

するとじいさんは、やにわにその時計とけいをひっつかんで床ゆかのうえにたたきつけました。

「さっさと出てうせろ。ぐずぐずしてるとぶちころしてしまうぞ。不忠者ふちゅうものめが。この国の王さまほどごりっぱなおかたが、世界せかい中にまたとあるかッ。」

そして、もっていた金づちをふりあげました。

王さまは靴屋くつやの店からとびだしました。とびだすとき、ひおいの棒ぼうにごつんと頭をぶつけて、大おおきなこぶをつくりました。

けれど王さまは、こころを花のようにあかるくして、

「わしの人民じんみんはよい人民じんみんだ。わしの人民じんみんはよい人民じんみんだ。」

とくりかえしながら、宮殿きゅうでんのほうへかえってゆきました。

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Where this text comes from

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Source edition (底本)
底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書


   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行

底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書

入力:めいこ

校正:鈴木厚司、もりみつじゅんじ

2003年9月29日作成

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Typed by (入力)
めいこ
Proofread by (校正)
もりみつじゅんじ、鈴木厚司

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