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太宰治 Osamu Dazai 1909.06.19〜1948.06.13

或る忠告

あるちゅうこく

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「その作家さっかの日常にちじょうの生活せいかつが、そのまま作品さくひんにもあらわれて居ります。ごまかそうたって、それは出来しゅったいません。生活せいかつ以上いじょうの作品さくひんは書けません。ふやけた生活せいかつをしていて、いい作品さくひんを書こうたって、それは無理むりです。

どうやら『文人ふみと』の仲間なかま入いり出来できるようになったのが、そんなに嬉うれしいのかね。宗匠そうしょう頭巾ときんをかぶって、『どうも此頃このごろの青年せいねんはテニヲハの使用しようが滅茶めちゃで恐れ入りやす。』などは、げろが出そうだ。どうやら『先生せんせい』と言われるようになったのが、そんなに嬉うれしいのかね。八卦見はっけみだって、先生せんせいと言われています。どうやら、世よの中なかから名士めいしの扱あつかいを受うけて、映画えいがの試写ししゃやら相撲すまいの招待しょうたいをもらうのが、そんなに嬉うれしいのかね。此頃このごろすこしはお金がはいるようになったそうだが、それが、そんなに嬉うれしいのかね。小説しょうせつを書かなくたって名士めいしの扱あつかいを受うける道があったでしょう。殊ことにお金は、他にもうける手段しゅだんは、いくらでもあったでしょうに。

立身りっしん出世しゅっせかね。小説しょうせつを書かきはじめた時の、あの悲壮ひそうぶった覚悟かくごのほどは、どうなりました。

けちくさいよ。ばかに気取ってるじゃないか。それでも何か、書いたつもりでいるのかね。時評じひょうに依よると、お前まえの心境しんきょういよいよ澄み渡ったそうだね、あはは。家庭かていの幸福こうふくか。妻子さいしのあるのは、お前まえばかりじゃありませんよ。

図々しいねえ。此頃このごろめっきり色が白くなったじゃないか。万葉まんようを読んでいるんだってね。読者どくしゃを、あんまり、だまさないで下さい。図に乗って、あんまり人をなめていると、みんなばらしてやりますよ。僕が知らないと思っているのですか。

責任せきにんが重おもいんだぜ。わからないかね。一日ついたち一日ついたち、責任せきにんが重くなっているんだぜ。もっと、まともに苦しもうよ。まともに生き切ぎる努力どりょくをしようぜ。明日あすの生活せいかつの計画けいかくよりは、きょうの没我ぼつがのパッションが大事だいじです。戦地せんちに行った人たちの事を考えろ。正直しょうじきはいつの時代じだいでも、美徳びとくだと思います。ごまかそうたって、だめですよ。明日あすの立派りっぱな覚悟かくごより、きょうの、つたない献身けんしんが、いま必要ひつようであります。お前まえたちの責任せきにんは重おもいぜ。」

と或ある詩人しじんが、私の家へ来て私に向って言いました。その人は、酒に酔ってはいませんでした。

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Source edition (底本)
底本:「もの思う葦」新潮文庫、新潮社


   1980(昭和55)年9月25日発行

   1998(平成10)年10月15日39刷

入力:蒋龍

校正:今井忠夫

2004年6月16日作成

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Typed by (入力)
蒋龍
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今井忠夫

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