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新美南吉 Nankichi Niimi 1913.07.30〜1943.03.22

飴だま

あめだま

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春のあたたかい日のこと、わたし舟ぶねにふたりの小ちいさな子こどもをつれた女の旅人たびびとがのりました。

舟ふねが出ようとすると、

「おオい、ちょっとまってくれ。」

と、どての向こうから手をふりながら、さむらいがひとり走ってきて、舟にとびこみました。

舟ふねは出ました。

さむらいは舟のまん中なかにどっかりすわっていました。ぽかぽかあたたかいので、そのうちにいねむりをはじめました。

黒ぐろいひげをはやして、つよそうなさむらいが、こっくりこっくりするので、子こどもたちはおかしくて、ふふふと笑わらいました。

お母さんは口に指をあてて、

「だまっておいで。」

といいました。さむらいがおこってはたいへんだからです。

子こどもたちはだまりました。

しばらくするとひとりの子こどもが、

「かあちゃん、飴あめだまちょうだい。」

と手をさしだしました。

すると、もうひとりの子こどもも、

「かあちゃん、あたしにも。」

といいました。

お母さんはふところから、紙のふくろをとりだしました。ところが、飴あめだまはもう一つしかありませんでした。

「あたしにちょうだい。」

「あたしにちょうだい。」

ふたりの子こどもは、りょうほうからせがみました。飴あめだまは一つしかないので、お母さんはこまってしまいました。

「いい子たちだから待っておいで、向こうへついたら買ってあげるからね。」

といってきかせても、子こどもたちは、ちょうだいよオ、ちょうだいよオ、とだだをこねました。

いねむりをしていたはずのさむらいは、ぱっちり眼めをあけて、子こどもたちがせがむのをみていました。

お母さんはおどろきました。いねむりをじゃまされたので、このおさむらいはおこっているのにちがいない、と思いました。

「おとなしくしておいで。」

と、お母さんは子こどもたちをなだめました。

けれど子こどもたちはききませんでした。

するとさむらいが、すらりと刀かたなをぬいて、お母さんと子こどもたちのまえにやってきました。

お母さんはまっさおになって、子こどもたちをかばいました。いねむりのじゃまをした子こどもたちを、さむらいがきりころすと思ったのです。

「飴あめだまを出せ。」

とさむらいはいいました。

お母さんはおそるおそる飴あめだまをさしだしました。

さむらいはそれを舟ふねのへりにのせ、刀でぱちんと二つにわりました。

そして、

「そオれ。」

とふたりの子こどもにわけてやりました。

それから、またもとのところにかえって、こっくりこっくりねむりはじめました。

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Where this text comes from

This work is in the public domain — its copyright has expired. The digital text was produced by volunteers at Aozora Bunko (青空文庫), Japan's free digital library, from the printed edition named below.

Source edition (底本)
底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書


   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行

底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書

入力:めいこ

校正:鈴木厚司、もりみつじゅんじ

2003年9月29日作成

青空文庫作成ファイル:

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Typed by (入力)
めいこ
Proofread by (校正)
もりみつじゅんじ、鈴木厚司

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