Nihoner

寺田寅彦 Torahiko Terada 1878.11.28〜1935.12.31

赤

あか

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蒲団ふとんを引っかぶって固く目を閉とじると何も見えぬ。しばらくすると真赤まっかな血のような色の何とも知れぬものが暗黒あんこくの中に現あらわれる。なお見ているとこれが次第しだいに大きくなって突然とつぜんぐるぐると廻まわり出だす。それはそれは名状めいじょうし難なんい速さで廻っているかと思おもうと急に花火はなびの開いたようにパッと散乱さんらんしてそのまた一つ一つの片が廻転かいてんしながら縦横たてよこに飛とび違ちがう。血の色はますます濃くなって再ふたたび真黒まっくろになったと思うとまたパッと明るくなって赤あかいものが廻まわりはじめる。こんな事を繰くり返かえしているうちに眠ねむりの神様は御出おいでになる。きっとこの血のような花火はなびのようなものが眠ねむりの神の先駆せんくのようなものであろう。

熱帯ねったい地方じかたの山川さんせん草木そうもく禽獣きんじゅう虫魚は皆赤あかいもののような気がして仕方しかたが無なあい。これは多くの地図ちずに熱帯ねったいを赤く塗ってあるからであろう。

先生せんせい赤あかい涙があるもんですかと、真面目まじめで聞いたのは僕の友達ともだちじゃ。

赤とは火の色なり、血の色なり、涙の色なり。

(明治あきはる三十二とうに年五月さつき『ほととぎす』)

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First published
「ほととぎす」1899(明治32)年5月10日
Source edition (底本)
底本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店

   1997(平成9)年11月21日発行

底本の親本:「寺田寅彦全集 第六巻」岩波書店

   1986(昭和61)年1月7日第2刷発行

初出:「ほととぎす」

   1899(明治32)年5月10日

※初出時の署名は「牛頓」です。

入力:砂場清隆

校正:木下聡

2022年5月27日作成

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Typed by (入力)
砂場清隆
Proofread by (校正)
木下聡

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