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寺田寅彦 Torahiko Terada 1878.11.28〜1935.12.31

天河と星の数

あまのがわとほしのかず

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天あまの河がわが無数むしゅの星ほしの集合しゅうごうしたものだという事は今日きょうでは誰も知っているが、何故なぜにあのような帯状たいじょうをなして密集みっしゅうしているかという事はちょっと分らぬ疑問ぎもんである。この疑問ぎもんはやがて天体てんたいの構造こうぞう如何いかという事になるので、昔から幾多いくたの天文てんもん学者がくしゃの想像そうぞう力を逞しうする種になっていた。ある人は天体てんたいの星は扁平へんぺいな薄うすい長方ちょうほう形の中に散布さんぷしていて、その中なかほどに我わが太陽たいよう系が居おるものと想像そうぞうした。こういう扁平へんぺいな板のような天体てんたいの中央ちゅうおうに居て八方はっぽうを眺ながめたと仮定かていすると、板の面に沿そうた方向ほうこうには沢山だくさんの星が重なって帯のように見まみえるはずでこれがすなわち天あまの河がわである。しかし板の面に斜ななめな方向ほうこうにはいくらの厚あつみもないから、従って見まみえる星ほしの数も少ないといって説明せつめいした。これは面白おもしろい考かんがえではあるが確たしかにその通とおりだという証拠しょうこもない、ただ一つの想像そうぞう説に過すぎないのである。想像そうぞうだけでは物足りない、確たしかな事実じじつを捕えたいというのが学者がくしゃの願である。しかし事実じじつを得えるのは寝ていて考かんがえるだけでは出来しゅったいぬ仕事しごとである。近頃ちかごろベルギーの天文てんもん台年報ねんぽうにストローバンという人が出した「銀河ぎんがに対たいする星ほしの分布ぶんぷ」と題だいする論文ろんぶんの抜書ぬきがきを見みると、驚おどろくべき学者がくしゃの根気こんきの結果けっかが現あらわれている。問題もんだいはつまり銀河ぎんがに対して天球てんきゅうを数千すうせんの区劃くかくに分わかち各区かくく中の星屑ほしくずの数を数かぞえるというのである。これがために用いた天体てんたい図や写真しゃしんに含まれていた星ほしの数は百万を少すこし越こえている。それでも全体ぜんたいの天球てんきゅうの十分じゅうぶん一くらいを数えたに過すぎぬので、すっかり数かぞえ上あげるにはまだどのくらいかかるか分らぬ。しかしこれだけの研究けんきゅうによって天あまの河がわを距さるに従って星ほしの密集みっしゅうの度が減げんずる模様もようがよほどよく分って来たのである。宇宙うちゅうに関かんする吾等の知識ちしきを増ますだけの目的もくてきでこんな面倒めんどうな仕事しごとを撓たゆまずに続つずけている学者がくしゃの熱心ねっしんを多とすべきものではあるまいか。

(明治あきはる四十しじゅう一年ひととせ八月二十にじゅう四日『東京とうきょう朝日あさひ新聞しんぶん』)

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First published
「東京朝日新聞」1908(明治41)年8月24日
Source edition (底本)
底本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店

   1997(平成9)年11月21日発行

底本の親本:「寺田寅彦全集 第六巻」岩波書店

   1986(昭和61)年1月7日第2刷発行

初出:「東京朝日新聞」

   1908(明治41)年8月24日

※初出時の署名は「閑人」です。

入力:砂場清隆

校正:木下聡

2022年6月26日作成

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Typed by (入力)
砂場清隆
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木下聡

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