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江戸川乱歩 Ranpo Edogawa 1894.10.21〜1965.07.28

宇宙怪人

うちゅうかいじん

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空とぶ円盤

空とぶ円盤えんばんは、アメリカからはじまって、世界せかいじゅうの空にあらわれました。日本にぽんにもあらわれたことが、ずっとまえの新聞しんぶんにのっていましたが、そのお話のはじまるころには、それが日にち本ほんの空に、しきりにあらわれるようになったのです。大きなおさらのような丸まるいものが、ひじょうな早さで、高だかい空を飛んでいくのです。どこかの国の新がたの偵察ていさつ飛行ひこう機ではないかという人もありました。いや、ひょっとしたら、宇宙うちゅうのどこかの星から、地球ちきゅうのようすを、さぐりにきたのかもしれない、という人もありました。

でも、おおくの人は、

「そんなばかなことがあるものか、大都会とかいの人が、空をながめていて、みんなが見たのなら信用しんようできるが、山やまおくや、いなかの人が、ひとりや、ふたり見たというのでは、見ちがいということがある。大おおきな流星ながれぼしを、円盤えんばんのように感じたのかもしれない。また空には蜃気楼しんきろうのような現象げんしょうがおこるものだから、山道さんどうなどを走っている自動じどう車のヘッドライトが、空にうつって、ちょうど円盤えんばんが飛んでいるように、見えたのかもしれない。いずれにしても、そんなふしぎな飛行ひこう機などあるはずがない。なによりのしょうこには、空とぶ円盤えんばんが、この地球ちきゅうの上へ、一どだって着陸ちゃくりくしたことがないじゃないか。」

といって、まじめに考えようともしませんでした。

しかし、空とぶ円盤えんばんのほうでは、そんなうわさにはむとんじゃくに、このごろでは、また、ほうぼうの国へと、しきりと、あらわれるようになりました。いままで、あまり飛んでこなかった日本にぽんの空へも、たびたび、すがたをあらわすのです。でも、じっさいに、それを見た人は、ごくすくないのですから、新聞しんぶんにそのはなしが出ても、見ない人たちは信用しんようしません。きっと、なにかほかのものと、見まちがえたのだろうと、たかをくくっていました。

ところが、ある日のこと、空とぶ円盤えんばんをバカにしていた人たちを、アッといったまま、息もできないほど、びっくりさせる事件じけんがおこりました。それは、いったい、どんなできごとだったのでしょう。それをおはなしするまえに、まず、平野ひらの少年しょうねんを、ごしょうかいしなければなりません。

平野ひらの少年しょうねんは、小学校がっこうの六年生で、おうちは、世田谷せたがや区のはずれの、さびしいところにありました。平野ひらの君のおうちのそばに、北村きたむらさんという、二十にじゅう五、六歳の、理科りかのことをよく知っているおじさんがすんでいて、一月ほどまえから、平野ひらの君は、その北村きたむらおじさんのうちへ、よく遊あそびにいくようになっていました。平野ひらの君は理科りかがすきで、おじさんのお話が、おもしろくてたまらなかったからです。

北村きたむらさんのおうちは、バラックだての、三つしかへやのない、小ちいさな家で、おじさんは、耳の遠とおいばあやと、ふたりきりで、そこにすんでいました。おへやには、むずかしい理科りかの本が、たくさんならんでいて、けんび鏡や天体てんたい望遠ぼうえん鏡などもおいてありました。平野ひらの少年しょうねんは、その望遠ぼうえん鏡で、月や火星かせいを見みるのが、だいすきでした。

「おじさん、空とぶ円盤えんばんって、ほんとうでしょうか。」

あるとき、平野ひらの少年しょうねんがたずねますと、北村きたむらさんは、まってましたとばかり、空とぶ円盤えんばんのせつめいをはじめました。アメリカの、どこのなんという人が、さいしょ、それを見たということ、そのつぎには、どこ、そのつぎには、どこと、世界せかい各国かっこくにあらわれた、円盤えんばんの歴史れきしを、くわしく話はなし、それから、このお話のさいしょに書いたように、空とぶ円盤えんばんについては、いろいろの考かんがえかたがあることを説明せつめいしたあとで、こんなふうにいうのでした。

「ところで、ぼくの考かんがえだがね。ぼくはこのうわさをバカにしてはいけないとおもうのだよ。見まちがいといっても、こんなに世界せかい各国かっこくの人が、おなじ見まちがいをするというのは、へんだからね。

人間じんかんというものは、はじめて見たものを、信用しんようしないようにできている。新あたらしい発明はつめいでも、おなじことだよ。たとえば、飛行ひこう機だね。いまから百年まえには、人間じんかんが空を飛とべるなんて、夢にも知らなかった。それよりずっとはやく、鳥のように空を飛とぶことを考かんがえた人は、たくさんある。日本にぽんの江戸えど時代じだいにも、じぶんのからだに、大おおきなはねをしばりつけて、空中くうちゅう飛行ひこうをやってみた人がある。しかし、そんな人たちは、きちがいだといわれた。空を飛とぶなんて、バカなことができるものかと、ものわらいになった。

それがどうだね。いまでは、五十ごじゅう人、六十ろくじゅう人という人をのせて、じゆうじざいに空を飛とび、二、三日で地球ちきゅうをひとまわりできるほどになってしまった。

だから、空とぶ円盤えんばんだって、バカにしてはいけない。われわれの頭では考かんがえられなくても、もっとべつの世界せかいの人には、わけもないことかもしれないのだからね。」

「べつの世界せかいの人って?」

平野ひらの少年しょうねんは、ふしぎそうな顔をしてたずねました。

「つまり地球ちきゅうのそとの世界せかいさ。宇宙うちゅうには地球ちきゅうよりも大おおきい世界せかいが、かずかぎりなく、あるんだからね。」

「アア、それじゃ、火星かせいですか。あれは火星かせいから飛んでくるのですか。」

平野ひらの少年しょうねんの顔が、ポッと赤くなりました。そして、胸がドキドキしてきました。

「火星かせいかもしれない。もっと、ほかの星かもしれない。いずれにしても、宇宙うちゅうの、どこか、べつの世界せかいから、われわれの地球ちきゅうを偵察ていさつにやってくるということは、考かんがえられないことじゃないからね。」

「それじゃ、あの円盤えんばんの中には、どこかの星ほしの世界せかいの人間じんかんが、はいっているのでしょうか。」

「はいっているかもしれない。いないかもしれない。だれも、はいっていなくても、機械きかいのちからで、偵察ていさつできるからね。われわれ地球ちきゅうの人間じんかんが発明はつめいした、無線むせん操縦そうじゅう飛行ひこう機のことを考かんがえてみたまえ。どこかの星ほしの世界せかいには、あれよりもっと進歩しんぽした機械きかいがあるかもしれない。そうすれば、中に人間じんかんがはいっていなくても、じゆうに円盤えんばんを飛ばすことができるし、地球ちきゅうのありさまを、写真しゃしんにとることもできるわけだからね。」

平野ひらの少年しょうねんは、そんな話をきいていますと、こわいような、たのしいような、なんともいえない、気きもちになってくるのでした。

「でも、星ほしの世界せかいの人間じんかんって、いったい、どんなかたちをしているでしょうね。火星人せいじんはタコみたいなグニャグニャした足が、たくさんある、おそろしい怪物かいぶつですね。」

「あれはウエルズという、イギリスの小説しょうせつ家が考えだしたものだよ。ほんとうは、どんなかたちだか、だれもしらない。だいいち、火星かせいに、生いきものがすんでいるかどうかさえ、わかっていない。だから、円盤えんばんを飛とばしているのは、火星かせいとはかぎらないのだよ。もっと遠とおい、大おおきな星かもしれない。」

「じゃ、タコよりも、もっとおそろしい、かたちをしているのでしょうか。」

「それはなんともいえないね。グニャグニャしたクラゲみたいなやつかもしれない。それとも、ゴツゴツした機械きかいみたいな、かたちをしているかもしれない。また、ひょっとしたら、あんがい、地球ちきゅうの人間じんかんに、似ているかもしれない。」

「こわいなあ、もし、そんなやつに、道で出くわしたらどうしよう。」

「ハハハ……、わからないよ。出でくわすかも、わからないよ。あの円盤えんばんの中に、星ほしの人間じんかんがはいっていて、円盤えんばんが、地球ちきゅうのどこかへ着陸ちゃくりくしたとすればね。」

北村きたむらさんは、そういって、平野ひらの少年しょうねんの顔を、じっとみつめました。

平野ひらの君は、そのとき、ゾーッと、からだが、しびれたようになって、いっしゅんかん目の前がモヤモヤとかすみ、北村きたむらのおじさんが、とほうもない怪物かいぶつのように見えました。

「どうしたんだい、平野ひらの君。そんなこわい顔して、ぼくをにらみつけて。」

「いえ、なんでもないんです。もういいんです。」

それは、むろん気のせいでした。北村きたむらさんは、いつものような、やさしい顔でニコニコ笑っているのでした。

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Where this text comes from

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First published
「少年」光文社、1953(昭和28)年1月号~12月号
Source edition (底本)
底本:「怪奇四十面相/宇宙怪人」江戸川乱歩推理文庫、講談社

   1988(昭和63)年1月8日第1刷発行

初出:「少年」光文社

   1953(昭和28)年1月号~12月号

入力:sogo

校正:大久保ゆう

2017年4月3日作成

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Typed by (入力)
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Proofread by (校正)
大久保ゆう

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