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江戸川乱歩 Ranpo Edogawa 1894.10.21〜1965.07.28

赤いカブトムシ

あかいカブトムシ

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あるにちよう日びのごご、丹下たんげサト子こちゃんと、木村きむらミドリちゃんと、野崎のざきサユリちゃんの三人が、友ともだちのところへあそびに行ったかえりに、世田谷せたがや区のさびしい町を、手をつないで歩いていました。三人とも、小学校がっこう三年生のなかよしです。

「あらっ。」

サト子こちゃんが、なにを見たのか、ぎょっとしたようにたちどまりました。

ミドリちゃんもサユリちゃんもびっくりして、サト子こちゃんの見つめている方をながめました。

すると、道のまん中なかに、みょうなことがおこっていたのです。むこうのマンホールのてつのふたが、じりり、じりりと、もち上がっているのです。だれか、マンホールの中にいるのでしょうか。

マンホールのふたは、すっかりひらいていました。そして、その下から、黒ぐろいマントをきた男の人が、ぬうっとあらわれたのです。その人は、つばのひろい、まっ黒くろなぼうしをかぶり、大おおきなめがねをかけ、口くちひげがぴんと、両方りょうほうにはね上がっていて、黒ぐろい三かくのあごひげをはやしていました。

せいようあくまみたいな、きみのわるい人です。その人は、マンホールからはい出して、じめんにすっくとたち上あがると、三人の方を見て、にやりとわらいました。そして、黒ぐろいマントを、こうもりのようにひらひらさせながら、むこうの方へ歩いていくのです。

「あやしい人だわ。ねえ、みんなで、あの人のあとをつけてみましょうよ。」

ミドリちゃんが、小ちいさい声でいいました。ミドリちゃんのにいさんの敏夫としおくんは、しょうねんたんていだんいんなので、ミドリちゃんもそういうたんていみたいなことがすきなのです。サト子こちゃんもサユリちゃんも、ミドリちゃんのいうことは、なんでもきくくせなので、そのまま三人で、黒マントの男のあとをつけていきました。

黒マントは、ひろいはらっぱをとおって、むこうの森の中へはいっていきます。世田谷せたがや区のはずれには、はたけもあれば、森もあるのです。ひるまですから、もりへはいるのも、おそろしくはありません。三人は、こわいもの見たさで、どこまでもあとをつけました。

森の中に、一けんのふるいせいようかんがたっていました。

「あらっ、あれはおばけやしきよ。」

「まあ、こわい。どうしましょう。」

そのせいようかんは、むかし、せいよう人がすんでいたのですが、いまはあきやになっていて、そのへんではおばけやしきとよばれています。

三人は、近ちかくにすんでいるので、それをよく知っていました。

夜、せいようかんの二かいのまどから、赤あかい人ひとだまが、すうっと出ていったのを見た人があるということでした。また、だれもいないせいようかんの中ちゅうから、きみのわるい女のなき声ごえがきこえてくるといううわさもありました。

三人のしょうじょがにげ出そうとしていますと、あっとおどろくようなことがおこりました。

黒マントの男が、せいようかんの外そとがわを、するするとのぼっていくではありませんか。はしごもないのに、まるでへびのようにのぼっていくと、二かいのまどの中にすがたをけしてしまいました。

三人はぞっとして、いきなりかけ出そうとしましたが、そのとき、せいようかんの方から、けたたましいさけび声ごえがきこえてきました。

それをきくと、三人とも、思わず、うしろをふりむきました。二かいのまどから、白じろいかおがのぞいていました。そのかおが、きゃあっとさけんでいるのです。とおいので、はっきり、わかりませんが、三人とおなじくらいの年としごろの、おかっぱの女おんなの子こです。その子こが、いまにもころされそうにさけんでいるのです。

「きっと、あの黒マントの男がいじめているんだわ。」

三人とも、おなじことを考かんがえました。

まどの女おんなの子こは、なにものかの手からのがれようとして、もがいていましたが、とうとう、ずるずるとうしろへひっぱられて、まどからきえてしまいました。そのとき、なき声ごえがぱったりとまったのは、男に口をおさえられたからかもしれません。

三人は、むがむちゅうでかけ出でしました。そして、近ちかくのめいめいのうちへかえったのですが、ミドリちゃんは、すぐにこのことをおとうさんと、にいさんの敏夫としおくんに知らせました。

「おしいことをしたなあ。ぼくがそこにいれば、きっと手てがかりをつかんだのに。」

しょうねんたんていだんいんの敏夫としおくんが、ざんねんそうにいいました。

ミドリちゃんのおとうさんが、けいさつにでんわをかけたので、けいかんたちが森の中のせいようかんにかけつけて、中をしらべましたが、まったくのあきやで、人のかげさえ見えないのでした。せいようあくまのような黒マントの男は、いったいなにものでしょうか。そして、あのかわいそうな女おんなの子こは、どうなったのでしょうか。

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First published
「たのしい三年生」講談社、1958(昭和33)年4月~1959(昭和34)年3月
Source edition (底本)
底本:「新宝島」江戸川乱歩推理文庫、講談社

   1988(昭和63)年11月8日第1版発行

初出:「たのしい三年生」講談社

   1958(昭和33)年4月~1959(昭和34)年3月

入力:sogo

校正:岡村和彦

2016年6月10日作成

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岡村和彦

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