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江戸川乱歩 Ranpo Edogawa 1894.10.21〜1965.07.28

「悪霊物語」自作解説

「あくりょうものがたり」じさくかいせつ

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私のつけ句

連作れんさくとは連歌れんが俳諧はいかいの如ごときものであろう。第一だいいちの発句ほっくは余あまり限定げんてい的でない方がよろしい。脇わきはこれをいかようにも受うけとるであろう。第三はまたそれを別の方向ほうこうに転化かするであろう。そして、最後さいごの揚句あげくと最初さいしょの発句ほっくとは似もつかぬ姿となることもあり得える。

私はこの連作れんさくの第一だいいち回を、ホフマンの「砂男すなお」や、ワイルドの「ドリアン・グレイ」を連想れんそうしながら書いた。これをすなおに引きのばせば、幻想げんそう怪奇かいきの物語ものがたりとなる。老人ろうじん形師は人形にんぎょうに生命いのちを吹ふきこむ錬金術師れんきんじゅつしであろう。また、モデル女を誘拐ゆうかいし、監禁かんきんする色魔しきまであろう。小説しょうせつ家はこの老魔術師じゅつしの心を知しる人である。知りながら、その妖術ようじゅつのとりことなるのである。

彼はその女の、人間じんかんとも人形にんぎょうともつかぬ妖美ようびにうたれ、これを恋するであろう。この女は人間じんかんか、それとも老魔術師じゅつしが造り出した人形にんぎょうか、この疑惑ぎわくは物語ものがたりの終おわりまで解けないであろう。

冷つめたい滑なめらかな蝋人の肌に惹ひかれて、小説しょうせつ家は狂気きょうきする。老人ろうじん形師は彼かの恋がたきである。その狡猾こうかつな術策じゅっさくと戦わねばならぬ。美女びじょは彼を魅惑みわくし、翻弄ほんろうし、あらゆる痴態ちたいをつくすであろう。その幾いく場面ばめんが語られる。

或ある時は、むせ返かえる酒場さかばの喧噪けんそうの中に、妖女ようじょは透すき通とうるからだを酔よいの桃色ももいろに染そめて嬌笑きょうしょうするであろう。或ある時は、廃園はいえんの森の奥深く、泉の水中すいちゅうに長ながいかみの毛を藻もとなびかせて、もがきたわむれるであろう。真紅しんくのビロウドのベッドを背景はいけいとしてもよろしい。青空あおぞらの風船ふうせんの吊籠つりかごの別世界せかいに、詩人しじんと妖女ようじょと相抱あいいだきながら、下界げかいを嘲笑ちょうしょうしてもよろしい。しかし、二人ふたりのうしろには、たえまなく、老魔術師じゅつしの黒ぐろい影と、狡猾こうかつな悪念あくねんがつきまとっている。

さて、その『揚句あげく』は美しき死であろうか。小説しょうせつ家はこの世よのほかの妖美ようびに酔いしれて、女と折り重なって息絶たえるであろう。そして、美女びじょの死体したいは、人肉じんにくではなくて、永遠えいえんに変かわることなき、透すき通とうる蝋の肌なのである。

(「講談こうだん倶楽部くらぶ」昭和しょうわ二十にじゅう九年九月増刊ぞうかん)

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First published
「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊
Source edition (底本)
底本:「江戸川乱歩全集 第17巻 化人幻戯」光文社文庫、光文社

   2005(平成17)年4月20日初版1刷発行

初出:「講談倶楽部」講談社

   1954(昭和29)年9月増刊

※底本における表題「自作解説」に、作品名を補い、作品名を「「悪霊物語」自作解説」としました。

入力:植松健伍

校正:Juki

2019年7月1日作成

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植松健伍
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