Nihoner

島崎藤村 Toson Shimazaki 1872.03.25〜1943.08.22

桜の実の熟する時

さくらのみのじゅくするとき

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思わず彼は拾い上げた桜の実を嗅かいで見て、お伽話とぎばなしの情調じょうちょうを味あじわった。

それを若わかい日の幸福こうふくのしるしという風に想像そうぞうして見た。

これは自分じぶんの著作ちょさくの中で、年若き読者どくしゃに勧すすめて見たいと思おもうものの一つだ。私は浅草せんそう新片町しんかたまちにあった家の方でこれを起稿きこうし、巴里パリポオル・ロワイアル並木なみき街の客舎きゃくしゃへも持って行って書かき、仏国ふつこく中部ちゅうぶリモオジュの客舎きゃくしゃでも書かき、その後帰国きこくしてこの稿を完成かんせいした。この書は私に取って長ながい旅の記念きねんだ。

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First published
「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月
Source edition (底本)
底本:「桜の実の熟する時」新潮文庫、新潮社

   1955(昭和30)年5月10日発行

   1968(昭和43)年10月20日21刷改版

   2006(平成18)年11月10日61刷

初出:「文章世界」

   1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

※「静止(じっ)と」と「静止(じっと)」、「懐し」と「可懐(なつか)し」の混在は、底本通りです。

※「燈火」に対するルビの「あかり」と「ともしび」の混在は、底本通りです。

※底本巻末の三好行雄氏による註釈および解説は省略しました。

※初出時(1913(大正2)年1~2月)の表題は「桜の実」です。

※引用文の旧仮名は、底本通りです。

入力:林 幸雄

校正:officeshema

2022年2月25日作成

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Typed by (入力)
林幸雄
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