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有島武郎 Takeo Arishima 1878.03.04〜1923.06.09

クララの出家

クララのしゅっけ

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これ正しく人間じんかん生活せいかつ起っ実際じっさい出来事できごとある

またわれクララぐらうちさましたアグネスおんなよりそっすやすやしずねむつづけいた二百にひゃく十二とうに救世きゅうせいエルサレム入城にゅうじょう記念きねんする棕櫚しゅろ安息日あんそくび

おお見知みし越したち如何どういうだけつぎつぎクララあらわその一人ひとりやはりアッシジ貴族きぞくクララから西北せいほくあたヴィサンパオロモントルソリパオロだっいたからいたしなやかさがについクララ父親ちちおや期待きたいをもっ微笑えみほお浮べよくひかえにしいるこの青年せいねんもっと大胆だいたん振舞えはげますうにえたパオロ思い入っうにクララ近づいそして仏蘭西フランスから輸入ゆにゅうされたとわれる精巧せいこう頸飾くびかざうつくしい金象眼きんぞうがんのしある青銅からかねから取出しクララ巻こうした上品じょうぼん端麗たんれいわか青年せいねん肉体にくたい近寄ちかよ従っクララあまあ苦痛くつうじた青年せいねん近寄ちかよなとおもクララはもう上気じょうきしてかる瞑眩めまいわれ皮膚ひふくすぐしまり心臓しんぞうから早く強く押出おしだしされから肢体したい感触かんしょく失ったかおもほどこわばっその存在そんざいおもすらばかり羞恥しゅうちえたばんそのうつくしい暗緑あんりょくひとみよりももっとかがや分泌ぶんぴ浮き漂っ軽く開いくちびるあつ息気いきためかさかさいた油汗あぶらあせみ出両手りょうてうに冷え青年せいねんもどそうむか抱こうって垂れ下っ肉体にくたいはややともするうし引き倒さそうなりながら遮二無二しゃにむに押し進もうした

クララ半分はんぶん失いながらもこおそろしい魔術まじゅつよう抵抗ていこうしようした破滅はめつ迫っ深淵しんえん開けそうって彼女かのじょとかせねばならもだながらんにしないいたあわおののうしおうに荒れ狂いながら青年せいねん押寄せクララやがてかのしなやかパオロ自分じぶんじたあつ指先ゆびさきつめたい金属きんぞくとが同時どうじ皮膚ひふれる自制じせい全くわれしまっ彼女かのじょ苦痛くつうひとしい表情ひょうじょう浮べながら閉じ倒れかかっそこパオロあるはずその抱き取られるクララクララなくなるべきはず

もうパオロれる思っ瞬間しゅんかん過ぎ去ったが不思議ふしぎもそ触れいでクララ抵抗ていこうない空間くうかん傾き倒れ行っはっとおどろなく彼女かのじょ何所どこともわかないふか驀地まっしぐら陥っだっ彼女かのじょ開こうしたしかしそれ堅く閉じられ盲目めしいようだっ真暗まっくら颶風ぐふうよう空気くうき抵抗ていこうかんながら彼女かのじょ放題ほうだい行っ。「地獄じごくのだきもよう心咎こころとが突然とつぜんクララ襲っそれ本統ほんとうクララはじからかんがいたのだとしから基督キリスト婢女しもべとし生き通そう誓っその神聖しんせい誓言せいごんわすむく地獄じごくちる不思議ふしぎあるそれ覚悟かくごなけれならそれにし処女しょじょによって降誕こうたんした基督きりすと金輪際こんりんざい拝しられ苦しみ忍びようがなかったクララとんぼがえりってながら一心いっしん不乱ふらん聖母せいぼじた

ふと光っもの通ったと思っその両肱りょうひじたなようものつかられひざがしらがた足場あしばいたクララ改悛者かいしゅんしゃうに啜泣すすりなながららしいもの組み合せ埋め

いてるうちクララたちま軽くってやがてばかり童女どうじょよう何事なにごとはなやかめずらしい気分きぶんになっ行っ突然とつぜん華やい放胆ほうたん歌声うたごえ入っクララあげ好奇こうき見張っ両肱りょうひじ自分じぶん部屋へや窓枠まどわく両膝りょうひざ使つかなれかし長椅子ながいすっていた彼女かのじょ童女どうじょ習慣しゅうかんどおり侍童ページうにかたあたりまで切下きりさげにしあっから朧夜おぼろよこの堂母ドーモなるサンルフィ寺院じいんとそ広場ひろばとがかな陽春ようしゅん空気くうきやわられうに見渡さ寺院じいん北側きたがわロッカマジョーレのぼさかつの集団しゅうだんとなっよろけながら五、六華車きゃしゃ青年せいねんかぎり青春せいしゅん讃美さんびするたってだっクララはこ光景こうけいからおろすにあながらこれ一度ひとたび目撃もくげきしたあるっていた

そうおも同時どうじ出来事できごとずんずんクララおもとおはかどっ行っ

待て

待て

たか据えよ

触れよ

なりなり

なりなり

めぐしき少女おとめ

なるああこのなる

寝しずまっ町並まちなみある男声だんせい合唱がっしょうりひびく無頓着むとんじゃく無恥むち高笑たかわらそれいたあの青年せいねんたちはもう立止たちどまだとクララおもそのとお突然とつぜん中途ちゅうととめ探しっているようだったがやがて広場ひろば、「フランシス」「ベルナルドーわか騎士きし」「円卓子パンサ・ロトンダ盟主めいしゅなど声々叫び立てながらはぐれ伴侶なかま探しもどっ広場ひろば手前てまえまでそして二十にじゅう二、三まみえる一人ひとり青年せいねん夢遊むゆう病者びょうしゃうにあしもとしどろ歩い見つけクララ月影つきかげその青年せいねんそれコルソ往還おうかんへだてすぐむかベルナルドーフランシスだっ華美かび極め晴着はれぎ定紋じょうもんうっ蝦茶えびちゃマント仲間なかま権者けんじゃたるあらわすしゃく右手みぎて握っ様子ようすほか青年せいねんたちまさっ無頼ぶらい風俗ふうぞくだったがそのせ衰え物凄ものすごほど青くあしもとから二、三さき石畳いしだたみあなあくほど見入っまままたたしなかったそしてよろけるようあしどり見えないものられながら堂母ドーモ広場ひろば近づいそれつける引返ひきかえ青年せいねんたち一度ひとたびときつくってけよりざまフランシスこんだ。「フランシス」「わか騎士きしなどとそまでゆすびかけフランシスおそろしげからさめる様子ようすはなかった青年せいねんたちそのていたらくにまたどっ高笑たかわらした。「新妻にいづま想像そうぞうしてもぬけたな一人ひとりフランシスよせて叫んフランシスはついたきつねうにきょとんとし石畳いしだたみからはなして自分じぶんかこいくつかほてっわか笑顔えがお苦々しげに見廻みまわりしたクララ即興そっきょううに興味きょうみもよおしから上体じょうたい乗出しながらそれ眺め入っフランシスやがて自分じぶんまとマントしゃくつくはじまでふけいた歓楽かんらく想出おもいで糸口いとぐち見つかっうに苦笑にがわらした

よく飲ん騒いもんそう新妻にいつまかんがいるしかしもらおうとする想像そうぞう出来しゅったいないほどうつくしい富裕あり純潔じゅんけつ少女しょうじょなんだ

そういって青年せいねんたち足先あしさききに行け合図あいずした青年せいねんたちさわながら堂母ドーモかくれる見届みとどけるフランシスいまいましげに投げつけマント晴着はれぎずたずた破りすて

瞬間しゅんかんクララおり堂母ドーモ入口いりぐちげかけうにまろびながら悔恨かいこんむせびわかフランシス彼女かのじょ奇異きいおもをしながらそれながいたおぼかすでこ光景こうけいはじからしまいまで照しいる

寺院じいん開い寺院じいん内部うつべそのあふかとおもほどかったそのちゅうから一人ひとりあらわれ童女どうじょからいつにかクララになっ相当そうとうしたながにし寝衣ねまきクララ恐怖きょうふ予覚よかくながらその見つめいた入口いりぐちうずくまるフランシスつけるきっとクララするどひとみ向けたがフランシス襟元えりもとつか引きおこしぞろぞろはなやか着物きものだけつるしって肝腎かんじんフランシス溶けのか消えのかもなくなっていたクララおそろしい衝動しょうどうかんそれいたやがてその残っ着物きもの分れクララとなりとなっそして二人ふたりそのクララ許婚いいなずけオッヴィアナフォルテブラッチョだっクララっているうつくしい芝生しばふより一段いちだんひく沼地ぬまちかった黒土くろつち単調たんちょうずらっとならんでっていた――おびやかすうになげうにうらうにたたかいちまたくぐったらしい性的せいてきオッヴィアナなき功名こうみょうこわ意志いし生一本きいっぽん気象きしょうかた輪郭りんかく描いいたそしてその貴族きぞくほこ包んいたまで弱味よわみ見せなかったらしいそうら含んじっとクララ見入っいたクララ許婚いいなずけであるくそしてこの青年せいねんらしい尊敬そんけいしているくせそのおとなしく受けようはしかったのだクララにあながらうまちるからささられいたよう不思議ふしぎ自分じぶん運命うんめい思いやっおそかれかれみのおやはなべきうえかんが自分じぶん延ばしいるそしてその黒土こくどじりじり沈みこんおびやかすようなげようむようオッヴィアナってせま難儀なんぎ救っくれわすばんばかりゆがめ開いいるしかしとも立て死のうにしず陰鬱いんうつだっクララ芝生しばふからそれただながはいられなかったまで埋まっいっぱいためじっとクララいおうとするほかてしないその多く男女なんにょしず沈ん行きつつあるのだしずみこむぬるり四方しかたからそ埋めなが動揺どうようよだてクララかもわすすくため片足かたあし入れようした

その瞬間しゅんかん彼女かのじょ真黄まっきいかがや投げ出さ芝生しばふももうそこはなかったクララくらみながら起き上がろうもがいたクララ掴ん起さないものがあっクララそれ天使てんしガブリエルある知っ。「天国てんごくとつためまえきよられるのだそうい聞こえたと思っ同時どうじガブリエル爛々らんらんえるクララ乳房ちぶさからずぶりさし通し燃えさかっ尖頭きっさき腹部ふくぶまでいたクララ苦悶くもんうちあげあたりまぶしい明滅めいめつして十字じゅうじにかかった基督キリスト姿かに見やらクララ有頂天うちょうてんになっ全身ぜんしんはかつておぼないくるしいこころよ感覚かんかくごとおののいのど裂けやぶれる一声いっせい全身ぜんしんはり満ちしぼ切ろうとするよう瞬間しゅんかんその瞬間しゅんかんクララはさめ

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Where this text comes from

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First published
「太陽」1917(大正6)年9月
Source edition (底本)
底本:「カインの末裔 クララの出家」岩波文庫、岩波書店


   1940(昭和15)年9月10日第1刷発行

   1980(昭和55)年5月16日第25刷改版発行

   1990(平成2)年4月15日第35刷発行

底本の親本:「有島武郎著作集」第三輯、新潮社

   1918(大正7)年2月刊

初出:「太陽」

   1917(大正6)年9月

入力:鈴木厚司

校正:染川隆俊

2001年2月14日公開

2005年9月24日修正

青空文庫作成ファイル:

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Typed by (入力)
鈴木厚司
Proofread by (校正)
染川隆俊

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