Nihoner

森鴎外 Ogai Mori 1862.02.17〜1922.07.09

木精

こだま

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いわ屏風びょうぶうにっている登山とざんするはじめて深山薄雪草みやまうすゆきそうじろ見付けよろこここ谷間たにまあるフランツいつもここハル

ようブロンド振り立っうかしたら羅馬ロオマ法皇ほうおう宮廷きゅうてい生捕いけどられきそう高音こうおんハルある

呼んしまってじいっとしてっている

しばらするおおきいにぶコントルバスようハルこたえる

これ木精こだまある

フランツなんに知らないただあたたかい雲雀ひばり飛び立っうにつめたい草叢くさむらゆうべこおろぎこおろぎしのびやかここハルあるしかし木精もくせい答えくれるうれしい木精もくせい答えもらためない呼べこたえるあたまえある明るく照っいるっていれちるおとためっているないっていれあたまえあるそしてそのあたまえうれしいある

フランツふもとからはじめてちいさいくつって穿かせくれからここハル呼べばい木精もくせい答えないことはない

フランツ段々大きくなっそして手伝てつだいさせられるようになっそれひさしいいた

あるある一面いちめん包んいた雪がいただきだけって方々もみ木立こだち現しぶかぶか谷川たにがわごうごう鳴っながれるあるフランツ久振ひさしぶり

そしてうにハル呼ん

ようブロンド振り立っ呼んしかしすこさびびた高音こうおんになっいるある

呼んしまってじいっとしてっている

しばらしてもう木精もくせいこたえるなとおもはひっそりしてなんに聞えないただぶかぶか谷川たにがわごうごう鳴っいるばかりある

フランツ久しく木精もくせい問答もんどうをしかった自分じぶん時間じかんかん誤っいるかってまたしばらじいっとしてっていた

木精もくせいやはり答えない

フランツはじいっとしいつまでいつまでっている

木精もくせいいつまでいつまで答えない

これまでいつもえた木精もくせいどうして答えないはずないしや木精もくせいえた自分じぶんどうかして聞かかったないかと思っ

フランツよりおおきいをしハル呼ん

そしてまたじいっとしてっている

もうこたえるはずだとおも時間じかん

はひっそりしていてごうごういう谷川たにがわがするばかりある

また待っ時間じかん

こえるもの谷川たにがわばかりある

これまでフランツただ不思議ふしぎ不思議ふしぎだと思っていたばかりであったがこのになっとも言えない心細く寂しくなったとえばこれまで自由じゆううごかすこと出来しゅったい手足しゅそくふい動かなくなっようかんある麻痺まひかんある麻痺まひ部分ぶぶんある死のはじめてフランツうなじ触れあるフランツようブロンド一本いっぽん一本いっぽんつよう心持こころもちがしともしに周匝まわり見廻みまわりしたれるもの変っない屏風びょうぶっているところどころ穿うが木立こだち現わしいるすこないたちまこまになっまで見えいた木立こだちがまかくれる谷川たにがわふとにぶ調子ちょうしってどこきよがする牝牛めうしくびあるあろう

フランツれるのも知らじいっとかんがいるあま不思議ふしぎなのはないかともってしかしどうはなさそうある

しばらしてフランツ思い付いたというよう、「木精もくせい死んのだつぶやいそしてぼんやり自分じぶん住んいるかえ

おんな夕方ゆうがたであっフランツどう木精もくせいかってならないまた出掛でか

この丁度ちょうど午過ひるすぎからごくかる吹いだかひくまろがっていたすこずつうごでるしたそして銀色ぎんいろひか見え見えフランツ出掛でかいう藍色あいいろ渡っはっきりかれいたそして断崖だんがいになっむき出さいるあたりびたくれないにおにおうのある

フランツ近づく忽ち木精もくせいにぎやかえたちいさいからおおきいにぶコントルバスよう木精もくせいある

フランツおや木精もくせいおぼそばだ

そしてかんがえるひまなくでるした子供こども集まっているまみえる子供こどもあるブリュネをしいる血色けっしょく好い丈夫たけおそう子供こどもある

フランツついにたこない子供こども気兼きがねをし立ち留まっ

子供こどもじいっとして木精もくせい聞いいたある木精もくせい止んでしまうとまたぞろハル呼ん

いさましい底力そこじからあるある

しばらする木精もくせいえたおおきいおおきいある山々ひびひび

そびいる山々このあざやかまるそしてあちこちある木立こだち次第しだい濃くなる鼠色ねずみいろひたされ

知ら子供こどもじいっとして木精もくせい尻声しりごえかすになっ消えしまうまで聞いいるどのよろこ輝いいるそのある

はなやはりじいっとして聞いいるフランツよろこひらめそれ木精もくせい死なないことったかある

フランツ思ってかそのままきびすめぐらし自分じぶん住んいる帰っ

歩きながらフランツはこんかんがあの子供こどもどこからだろうあたらしい出来しゅったいとおからってそこ住んいるというこあれはおおかたそ子供こどもだろうあれハル木精もくせいこたえる自分じぶんハル答えない木精もくせい死んだか思っであっ木精もくせい死なないしかしもう自分じぶんことはそうこん呼んたらこたえるかも知れいがもう廃そう

やみ次第しだいひくからだか昇っって山々最後さいご見せとうとう包まれしまっちらほら燈火とうか附きはじ

明治あきはる十三じゅうそう年一としかず

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Source edition (底本)
底本:「普請中 青年 森鴎外全集2」ちくま文庫、筑摩書房


   1995(平成7)年7月24日第1刷発行

底本の親本:「筑摩全集類聚版森鴎外全集」筑摩書房

   1971(昭和46)年4月~9月刊

入力:鈴木修一

校正:mayu

2001年7月31日公開

2006年4月28日修正

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Typed by (入力)
鈴木修一
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