Nihoner

中島敦 Atsushi Nakajima 1909.05.05〜1942.12.04

弟子

でし

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べん游侠ゆうきょう仲由ちゅうゆうあざな子路しろいう近頃ちかごろ賢者けんじゃうわさだか学匠がくしょう陬人すうひと孔丘こうきゅうはずかしめくれようものおもった似而非えせ賢者けんじゃ何程なにほどのこやあらん蓬頭突鬢ほうとうとつびん垂冠すいかん短後たんこういう服装いでたち左手ひだりておんどり右手みぎて牡豚おすぶた引提げいきおいもう孔丘こうきゅう出掛でかけるふるかまびすしい脣吻しんぷんをもっ儒家じゅか絃歌講誦げんかこうしょうみだうというのある

けたたましい動物どうぶつさけいかして青年せいねん圜冠句履えんかんこうりゆるけつけつ温顔おんがん孔子こうし問答もんどうはじまる

なんじこの?」孔子こうし

長剣ちょうけんこの。」青年せいねん昂然こうぜんとしはな

孔子こうし思わニコリした青年せいねん態度たいどあま稚気ちき満々たる誇負こふたからある血色けっしょくいいまゆふとはっきりしたから精悍せいかんそう青年せいねんしかしどこあいべき素直すなおさがおのずとあらわいるうにわれるふたた孔子こうし

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あにあら。」もともとこれ目的もくてきなのだから子路しろ込ん怒鳴どなうにこたえる

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しかしそれ子路しろはなお逆襲ぎゃくしゅうする気力きりょく失わない南山なむさんずしみずかってこれうれ犀革さいかくとお聞いいるして見れ天性てんせい優れたるとってまな必要ひつようがあろうか

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あからめしばらく孔子こうし突立つったままかんがいる様子ようすだったがほうり出し、「つつしん受けん。」降参こうさんしたたん言葉ことば窮したためないって孔子こうしすがたその最初さいしょ一言いちごんいたただちにけいとん場違ばちがであるこかんおのれあま懸絶けんぜつした相手あいて大き圧倒あっとうされいたある

即日そくじつ子路しろ師弟してい孔子こうし入っ

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その四十而不惑しじゅうにしてまどわずいったその四十しじゅうさい孔子こうしはまだたっいなかった子路しろよりわずか年長ねんちょうないのだ子路しろその年齢ねんれいほとんど無限むげん距離きょりかんいた

孔子こうし孔子こうしこの弟子でしったらし驚いいるたんこのとかじゅうきらかいうならばいくあるこの弟子でしほどもの軽蔑けいべつするめずらしい究極きゅうきょく精神せいしんするいじょうなるものすべけいから入らねばならぬの子路しろいうそのからはいっていう筋道すじみち容易たやすい受けつけないある。「云い玉帛ぎょくはくわんがく云い鐘鼓しょうこわん。」などというとおおいによろこ聞いいる曲礼きょくれい細則さいそくなるとにわかまらさそうする形式けいしき主義しゅぎこの本能ほんのう忌避きひたたかてこ礼楽れいがくおしえる孔子こうしとってもなかなかの難事なんじであっそれ以上いじょうこれならとが子路しろとって難事なんじであっ子路しろたよ孔子こうしいう人間じんかんあつだけあるそのあつ日常にちじょう区々たる集積しゅうせきある子路しろかんがられないもとがあってはじめてしょうずるだとしかしそもといかにしてやしなについ実際じっさい考慮こうりょ足りないとていつも孔子こうししかられるある孔子こうしふくするつのこと孔子こうし感化かんかただちに受けつけたかどうかはまたぞくする

上智じょうち下愚かぐ移りがた言っ孔子こうし子路しろのこかんが入れいなかった欠点けってんだらけはあって子路しろ下愚かぐ孔子こうしかんがない孔子こうしはこ剽悍ひょうかん弟子でし無類むるい美点びてんだれより高くっているそれはこ純粋じゅんすい利害りがいのここの美しこの人々在っあままれなの子路しろのこ傾向けいこう孔子こうし以外いがいからもとししたたられないむしろ一種いっしゅ不可解ふかかいおろさとしうつないあるしかし子路しろ勇も政治せいじ才幹さいかんこのめずらしいおろ比べれものないこと孔子こうしだけ良くっていた

従っおのれおさとにもかくにも就こうしたたいする態度たいどにおいであっ孔子こうしって以来いらい乱暴らんぼう子路しろ孝行たかゆきになったという親戚しんせき評判ひょうばんあるられ子路しろした孝行たかゆきどころうそばかりいているようがし仕方しかたなあからある我儘わがままって手古摺てこずらせいたころどうかんが正直しょうじきだっのだ自分じぶんいつわ喜ばされいる少々情無くわれるこまかい心理しんり分析家ぶんせきかはないけれどもきわめて正直しょうじき人間じんかんだっこんなあるずっと後年こうねんになっある突然とつぜんことにかった両親りょうしん元気げんき姿思出したらなみだその以来いらい子路しろ親孝ちかたか行は無類むるい献身的けんしんてきものとなるのだとにかくそれまでにわ孝行たかゆきはこん工合ぐあいであっ

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Source edition (底本)
底本:「ちくま日本文学全集 中島敦」筑摩書房


   1992(平成4)年7月20日第1刷発行

底本の親本:「中島敦全集 第一巻」筑摩書房

   1987(昭和62)年9月

入力:大内章

校正:川向直樹

2004年9月25日作成

青空文庫作成ファイル:

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Typed by (入力)
大内章
Proofread by (校正)
川向直樹

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