Nihoner

小川未明 Mimei Ogawa 1882.04.07〜1961.05.11

青い時計台

あおいとけいだい

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一

さよ子こは毎日まいにち、晩方ばんがたになりますと、二階かいの欄干らんかんによりかかって、外そとの景色けしきをながめることが好すきでありました。目めのさめるような青葉あおばに、風かぜが当あたって、海色うみいろをした空そらに星ほしの光ひかりが見みえてくると、遠とおく町まちの燈火ともしびが、乳色ちちいろのもやのうちから、ちらちらとひらめいてきました。

すると毎日まいにち、その時分じぶんになると、遠とおい町まちの方ほうにあたって、なんともいえないよい音色ねいろが聞きこえてきました。さよ子こは、その音色ねいろに耳みみを澄すましました。

「なんの音色ねいろだろう。どこから聞きこえてくるのだろう。」

と、独ひとり言ごとをして、いつまでも聞きいていますと、そのうちに日ひがまったく暮くれてしまって、広ひろい地上ちじょうが夜よるの色いろに包つつまれて、だんだん星ほしの光ひかりがさえてくる時分じぶんになると、いつともなしに、その音色ねいろはかすかになって、消きえてしまうのでありました。

また明あくる日ひの晩方ばんがたになりますと、その音おとが聞きこえてきました。その音おとは、にぎやかな感かんじのするうちに、悲かなしいところがありました。そして、そのほかのいろいろの音色ねいろから、独ひとり離はなれていて、歌うたをうたっているように思おもわれました。で、ここまで聞きこえてくるには、いろいろのところを歩あるき、また抜ぬけたりしてきたのであります。町まちの方ほうには電車でんしゃの音おとがしたり、また汽車きしゃの笛ふえの音おとなどもしているのでありました。

さよ子こは、よい音色ねいろの起おこるところへ、いってみたいと思おもいました。けれども、まだ年としもゆかないのに、そんな遠とおいところまで、しかも晩方ばんがたから出でかけていくのが恐おそろしくて、ついにゆく気きになれなかったのでありますが、ある日ひのこと、あまり遅おそくならないうちに、急いそいでいってみてこようと、ついに出でかけたのでありました。

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Where this text comes from

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First published
「処女」1914(大正3)年6月
Source edition (底本)
底本:「定本小川未明童話全集 1」講談社

   1976(昭和51)年11月10日第1刷発行

   1982(昭和57)年9月10日第7刷発行

初出:「処女」

   1914(大正3)年6月

※表題は底本では、「青(あお)い時計台(とけいだい)」となっています。

入力:ぷろぼの青空工作員チーム入力班

校正:ぷろぼの青空工作員チーム校正班

2011年11月2日作成

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