一
さよ子は毎日、晩方になりますと、二階の欄干によりかかって、外の景色をながめることが好きでありました。目のさめるような青葉に、風が当たって、海色をした空に星の光が見えてくると、遠く町の燈火が、乳色のもやのうちから、ちらちらとひらめいてきました。
すると毎日、その時分になると、遠い町の方にあたって、なんともいえないよい音色が聞こえてきました。さよ子は、その音色に耳を澄ましました。
「なんの音色だろう。どこから聞こえてくるのだろう。」
と、独り言をして、いつまでも聞いていますと、そのうちに日がまったく暮れてしまって、広い地上が夜の色に包まれて、だんだん星の光がさえてくる時分になると、いつともなしに、その音色はかすかになって、消えてしまうのでありました。
また明くる日の晩方になりますと、その音が聞こえてきました。その音は、にぎやかな感じのするうちに、悲しいところがありました。そして、そのほかのいろいろの音色から、独り離れていて、歌をうたっているように思われました。で、ここまで聞こえてくるには、いろいろのところを歩き、また抜けたりしてきたのであります。町の方には電車の音がしたり、また汽車の笛の音などもしているのでありました。
さよ子は、よい音色の起こるところへ、いってみたいと思いました。けれども、まだ年もゆかないのに、そんな遠いところまで、しかも晩方から出かけていくのが恐ろしくて、ついにゆく気になれなかったのでありますが、ある日のこと、あまり遅くならないうちに、急いでいってみてこようと、ついに出かけたのでありました。
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- First published
- 「処女」1914(大正3)年6月
- Source edition (底本)
- 底本:「定本小川未明童話全集 1」講談社
1976(昭和51)年11月10日第1刷発行
1982(昭和57)年9月10日第7刷発行
初出:「処女」
1914(大正3)年6月
※表題は底本では、「青(あお)い時計台(とけいだい)」となっています。
入力:ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正:ぷろぼの青空工作員チーム校正班
2011年11月2日作成
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