私ばかりしあわせな死に方をしてすみません。奥名とすこし長い生活ができて、愛情でもふえてきましたらこんな結果ともならずにすんだかもわかりません。山崎の姓に返ってから死にたいと願っていましたが……、骨は本当は太宰さんのお隣りにでも入れて頂ければ本望なのですけれど、それは余りにも虫のよい願いだと知っております。太宰さんと初めてお目もじしたとき他に二、三人のお友達と御一緒でいらっしゃいましたが、お話を伺っておりますときに私の心にピンピン触れるものがありました。奥名以上の愛情を感じてしまいました。御家庭を持っていらっしゃるお方で私も考えましたけれど、女として生き女として死にとうございます。あの世へ行ったら太宰さんの御両親様にも御あいさつしてきっと信じて頂くつもりです。愛して愛して治さんを幸せにしてみせます。
せめてもう一、二年生きていようと思ったのですが、妻は夫と共にどこ迄も歩みとうございますもの。ただ御両親のお悲しみと今後が気掛りです。
(注・この遺書は昭和二十二年八月二十九日付となっている)
Where this text comes from
This work is in the public domain — its copyright has expired. The digital text was produced by volunteers at Aozora Bunko (青空文庫), Japan's free digital library, from the printed edition named below.
- Source edition (底本)
- 底本:「雨の玉川心中」真善美研究所
1977(昭和52)年6月13日初版発行
※表題、副題は、底本編集時に与えられたものです。
※底本巻末の編者による注記は省略しました。
※(注・)ではじまる注記は編集部によるものです。
※底本巻末の編者による語注は省略しました。
入力:江村秀之
校正:酒井和郎
2017年4月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 - Typed by (入力)
- 江村秀之
- Proofread by (校正)
- 酒井和郎
Aozora library card for this work ↗ · How Nihoner sources and licenses its content